チックで凝り固まった身体をリラックス/漸進的筋弛緩法のやり方
「チックは当事者の筋肉を緊張させ、身体全体を強ばらせます。これが当事者をイライラさせたり、疲れさせたりすることがあります。ストレスを感じたり、イライラしたり、身体が疲れていたりすると、チックがひどくなるお子様もいます。そこでリラックスの仕方を学べば、もしかしたらチックがひどくなるのを防ぐことができるかもしれません。」※1.Douglas W. Woods; et al. (2008)
「漸進的筋弛緩法や腹式呼吸などのリラクセーション法は、リラックス反応を誘導し、ストレス反応を低減させ、心身の回復機能を向上させる方法である。多くの文化圏で古来より様々なリラクセーション法が実施されてきたが、近年、医学的にもその有効性が確認され、ストレスマネジメントの方法として活用されている。リラクセーション法は、ストレス反応の軽減において即効性があり、訓練を続けることで心身の自律機能が回復し、ストレス反応が起きにくい体へと変化させる。漸進的筋弛緩法とは、エドモンド・ジェイコブソンが開発した方法で、筋肉の緊張と弛緩を繰り返し行うことにより身体のリラックスを導く方法。筋肉の完全な弛緩を誘導するために、各部位の筋肉を数秒間緊張させた後に弛緩することを繰り返していく。」文部科学省HP第2章心のケア(2021年11月20日)
チック症状は様々な要因で発症したり悪化してしまいます。
緊張やイライラ、ストレスや疲れなどもそのうちの一つ、漸進的筋弛緩法は筋肉の緊張をほぐし、全身をリラックスさせることで心の緊張もほぐす。
その結果チック症状が軽減、起こりにくくなる場合もあるのではと、チック症状への認知行動療法であるCBITでは、漸進的筋弛緩法を行うことを勧めております。
今回は、CBITで行う漸進的筋弛緩法の行い方と、文部科学省のHPで記載されている漸進的筋弛緩法のやり方をご紹介させて頂きます。
インターネットで検索すると、その他様々なやり方、YouTubeなどでも動画でわかりやすく説明されている場合もあるかと思いますので、ご興味のある方は是非お試しください。
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【漸進的筋弛緩法のやり方/CBIT】
全身の筋肉群(CBITでは4パターン)をそれぞれ緊張(80%くらいの力をギュッと入れる)させ、5~7秒間保持して、20秒間ゆるめリラックスさせる動作をそれぞれ2回繰り返す。
各筋肉群の緊張は、次の手順で行うと良いでしょう。それぞれの動きの後に深い深呼吸(腹式呼吸)を行い更にリラックスしましょう。
1.腕と手のひら
両手のひらを親指を中に入れ握る、両肘で自分の身体を締め付けるように両肘を自分の体側にぴったり押し付けます(脇を締める感じ)。
2.脚(太ももから足首)、臀部、足(くるぶしから下)
椅子などに座った状態で、脚を床から浮かせまっすぐ伸ばす、つま先を自分の顔に向け、内ももにも力を入れしっかりと脚を閉じる。
3.胸と腹
ベッドや床に仰向けに寝そべり、大きな像が自分のお腹を踏んづけていくのを想像し、潰されないようにお腹、上半身を硬くします。像が行ってしまうまで、お腹を硬くしておかなければいけません。
4.顔、首、肩
肩を耳に近づけるように持ち上げ、あごを胸につけるように下に向けます。それを行っている間、歯を軽く食いしばり、叫ぶように口を横に引きます。そして目は大きく見開きます。
筋弛緩法を行う際、筋肉を緊張させるときは、その筋肉がどのくらい硬いか?重いか?暖かいか?緊張するか?感じてみましょう。
筋肉を緩めるときは、全ての力を抜いて、完全にリラックスした筋肉に意識を集中してみましょう。
筋肉がどんどんリラックスしていくのはどんな感じですか?筋肉が緩んでいくときの自分の感覚だけに集中してください。
手足に血液がジーンと流れていくような感じ、徐々に重力に引っ張られていくような感じ、筋肉がだんだんと深く完全にリラックスしていく気持ちのよさを味わってください。
何もする必要はありません。ただリラックスしていく気持ちの良さに集中してください。
筋肉を緩めている時、筋弛緩法を行う前と比べて今はどんな風か感じてみてください。
筋肉がすっかりリラックスしている感じはどうですか?そのリラックスしている感覚だけに集中してください。
チックを誘発するストレスを和らげるために、どのような時にリラクセーション法(漸進的筋弛緩法や呼吸法)を行うのが効果的か?いつ練習するのがよいか?親子で考えてみましょう。※2.Douglas W. Woods; et al. (2008)
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【漸進的筋弛緩法のやり方/文部科学省HP】
基本動作・・・各部位の筋肉に対し、10秒間力を入れ緊張させ、15~20秒間脱力・弛緩する。
身体の主要な筋肉に対し、この基本動作を順番に繰り返し行っていく。各部位の筋肉が弛緩してくるので、弛緩した状態を体感・体得していく。
1.両手・・・両腕を伸ばし、掌を上にして、親指を曲げて握り込む。10秒間力を入れ緊張させる。手をゆっくり広げ、膝の上において、15~20秒間脱力・弛緩する。筋肉が弛緩した状態を感じるよう教示する。
2.上腕・・・握った握り拳を肩に近づけ、曲った上腕全体に力を入れ10秒間緊張させ、その後15~20秒間脱力・弛緩する
以下、緊張させる部位について記述する。10秒間緊張後、15~20秒間脱力・弛緩する要領は同様である。
3.背中・・・2と同じ要領で曲げた上腕を外に広げ、肩甲骨を引き付ける。
4.肩・・・両肩を上げ、首をすぼめるように肩に力を入れる。
5.首・・・右側に首をひねる。左側も同様に行う。
6.顔・・・口をすぼめ、顔全体を顔の中心に集めるように力を入れる。
筋肉が弛緩した状態、口がぽかんとした状態
7.腹部・・・腹部に手をあて、その手を押し返すように力を入れる。
8.足・・・a:爪先まで足を伸ばし、足の下側の筋肉を緊張させる。
b:足を伸ばし、爪先を上に曲げ、足の上側の筋肉を緊張させる。
9.全身・・・1~8までの全身の筋肉を一度に10秒間緊張させる。
力をゆっくりと抜き、15~20秒間脱力・弛緩する。
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私がセッションを行っていて感じることは、首、肩、お腹辺りの筋弛緩法が、特に当事者にとって心地良いと感じている印象がありますが、激しいチックがある場合、呼吸法や漸進的筋弛緩法だけでリラックスするのには、ややハードルが高いように感じることもあります。
やはりハビットリバーサルも併せて、チックを上手にコントロールすることも大切であり、環境調整という、当事者にとっての日常のストレス自体を軽減させてあげることも大事だと思います。
チック症トゥレット症(症候群)のお子様には、どれか一つの治療や対処法ではなく、お子様それぞれに適した複合的なアプローチが、よりチックを軽減させ、上手に付き合って行くためのポイントかもしれません。
【参考文献】
Douglas W. Woods, John C. Piacentini, Susanna W. Chang; et al. (2008)Managing Tourette Syndrome: A Behavioral Intervention for Children and Adults. Oxford University Press.(金生由紀子・浅井逸郎 監訳)(2018)チックのための包括的行動的介入(CBIT)セラピストガイドートゥレット症とのつきあい方ー丸善出版※1.CBITセラピストガイド,97 ※2.CBITセラピストガイド.106-107.