チックに対する行動療法として、ハビットリバーサルを中心とするチックのための包括的行動的介入(Comprehensive Behavior Intervention of Tic Disorders: CBIT/シービット)が整備され、その有効性が小児および成人を対象とした大規模研究*¹で支持されています。
*¹アメリカでのCBITの研究によると、9歳~17歳(平均年齢11.7歳)の当事者の52.5%、16~69歳(平均年齢31.6歳)の当事者の38.1%に効果があったと示されています(薬物療法を併用することにより、より良い効果が得られることがあります)。
◆ ハビットリバーサル(ハビットリバーサルトレーニング)とは、❶アウェアネストレーニング(チックが起こる前の感覚に気付く練習)、❷拮抗反応トレーニング(拮抗反応*²を使用しチックをコントロールする練習)、❸ソーシャル・サポート(保護者等による患者がトレーニングを適切に行う為のサポート)の3つの要素で構成されています。
*²拮抗反応はと、起こりそうなチックをブロックするための動作であり、対象のチックが同時にできなくなるような競合する動作。
◆ CBIT(シービット)では、ハビットリバーサルに加えて、当事者および家族へのチックに対する①心理教育、チックが起こりやすい環境(内的外的要因)へ介入し、チックへの影響を軽減させる②環境調整及び③リラクセーション法(腹式呼吸&漸進的筋弛緩法)を行います。
CBIT/ハビットリバーサルトレーニングを端的に説明すると、先ずは、チックが起こりやすい環境及び状況を分析し、当事者にとってチックが起こりにくくなるよう環境を整えます。次に、習慣化・悪化したチックを改善させるために、拮抗反応やリラクゼーション法を使用しながらチックをコントロールする練習を行います。チックの管理の仕方を学ぶことでチックの悪化・再燃を防ぎ、チックとの上手な付き合い方を身に付けることが出来ます。
また、OCD(強迫症)に対する代表的な認知行動療法である暴露反応妨害法(exposure and response prevention: ERP)もチックに対して試みられており、チックに対しての有効性が示されております。
◆ ERPとは、前駆衝動*³に意識的に暴露しながらチックの出現を妨害することによって、前駆衝動への馴化を目指すものです。
欧州ではERPを用いるとこも多く、HRT(ハビットリバーサルトレーニング)とどちらの行動療法を選択するかは当事者の状態によってセラピストが判断します。強迫的なチックなど複雑チックがある場合、ERPを併用するとより効果的であると筆者は考えます。
*³前駆衝動とは、チックが起こる前の体の違和感(ムズムズやモヤモヤなど)のことをいい、この違和感を解消するためにチックを出している場合がある。
CBITは前述したように万人に効果がある訳ではありません。CBITによりチックを改善させるためには、①チックが無意識でないこと、チックが起こる前の感覚に十分な気付きがあること②当事者がチックをいくらか受け止めた上で、少しでも改善したいと治療への前向きな姿勢があること③トレーニングに支障をきたすような併発症や当事者の環境に大きな問題がないこと④研究では9歳以上の当事者が対象となっておりましたが、筆者の経験では小学生以上(当事者によって異なる)であることが好ましいかもしれません。それ以下の年齢の場合は呼吸法の練習を推奨。
トゥレット当事者会では、チックへの行動療法/認知行動療法(CBIT/ハビットリバーサル・呼吸法・ERP)のオンラインセッションを無料で行っております。ご興味のある方は以下よりお申し込みください。
筆者は重度のトゥレット症当事者(YGTSS 38/50)でありましたが、様々な治療のかいもありチックは寛解しております。現在はトゥレット症(チック症)でお困りの方のためのNPOを立ち上げ、ボランティアとして支援活動を行っております。当事者としての経験も踏まえチックの管理コントロール方法をアドバイス致します。
※チックへの行動療法/認知行動療法とは、症状の完治を目指すものではありません、チックをより正しく理解し、間違った習慣・行動・思考を改善させ、チックを軽減させる為のエクササイズのような事を行います。自分の力でチックを管理コントロールする手法を学び、チックの悪化を防ぐ、または悪化したチックを軽減できる可能性があります。また、チックに対する十分確実な治療法はいまだ確立されておりません、症状とうまく付き合っていけるようになることも必要で重要な考え方です。
チックへの行動療法「体験談/改善事例」
【参考文献】
金生由紀子「チック症群/チック障害群」『精神医学症候群Ⅰ(第2版)』(別冊日本臨牀No.37)116-129頁、日本臨牀社、2017.