チック症状への認知行動療法(CBIT/ハビットリバーサル&ERP)を行った感想

2019年10月頃より、東京大学医学部附属病院にて公認心理師・臨床心理士によるチック症状への認知行動療法(CBIT)の治験に参加させて頂きました。これまでの詳細はFacebookグループ「トゥレットの部屋」に投稿しておりますが、今回はチック症状への認知行動療法(CBIT/ハビットリバーサル&ERP)の総評として個人的見解を投稿致します。

まずはじめに、トゥレット症チック症といっても症状の度合いが個々で全く異なることをご理解下さい。

  • 暫定的チック症(1年未満)
  • 持続性チック症(運動チックor音声チック1年以上)
  • トゥレット症(運動チック& 音声チック1年以上)
  • 難治性トゥレット症(十分な治療を行ったにも関わらず、成人後も持続する重度のトゥレット症)

更にチックの種類、一つ一つのチックの頻度、大きさ、連動性、複雑性、併発する障害など様々な事を考慮しなければなりません。

そこでチックの重症度尺度となるYGTSS(Yale Global Tic Severity Scale、医療機関で計測可)をひとつの目安とすることが出来ます。

※YGTSSスコア表は医療従事者のみ使用可の為、公開する事は出来ませんが、後日ご自身でも計測できるようなオリジナルスコア表をUPしたいと思います。

YGTSSは50点満点若しくは100点満点で計測、100点満点は検査する方によって数値にバラツキが出やすいかと思うので、50点満点で比較した方が私は良いのではないかと思います。

認知行動療法を行う前の私のYGTSSスコア38/50点、YGTSSは一般的に35点から重症と言われており、35点以上がDBS手術を行うかどうかの一つの参考値になっております。25点前後が中等症、20~15点以下が軽症と言えるのかもしれません。当然ながら0点がチックなしです。

以上を踏まえた上でここから私が受けたCBITについて記載していきます。

そもそもCBIT(Comprehensive Behavioral Intervention for Tics チックの為の包括的行動的介入)をとても簡単に説明すると

  1. 機能分析(環境調整/チックトリガーの除去)
  2. リラクゼーション(呼吸法・漸進的筋弛緩法)
  3. ハビットリバーサル(認知行動療法)

以上3要素から成り立っております

1セッション約60分、計11セッションを数ヶ月の間に実施します(治験の場合)。

①機能分析…どの様な時にチックが出現するか?また悪化するのか?私の場合は仕事中です、これらを心理師と一緒に分析し除去出来るものはHRT(ハビットリバーサル)に入る前に対処します。

②リラクゼーション…緊張や不安、イライラなどがチックの引き金となっている可能性もある為、リラックスする為の方法を学びます。

  • リラクゼーションの為の呼吸法…腹式呼吸で鼻から4秒吸って鼻から8秒吐く、鼻から3秒吸って口から7秒吐くなど当事者が最もリラックス出来る呼吸を。※音声チックの為の呼吸法はまた別にあります
  • 漸進的筋弛緩法…ネットで検索すれば様々な方法が見つかりますが、全身の筋肉の緊張を解しリラックスさせる方法です。例えば両肩を上げ、6秒間7割の力を入れたまま保つ、肩の力を抜き両肩を下ろし、20秒間力を抜く。このような事をチックが発症する部位の筋肉などに行う事により、チックが軽減できる可能性もあるかもしれません、力を入れて力を抜く事がポイントですが、ストレッチやマッサージなども効果的な場合があります。

③ハビットリバーサル…①と②はどなたでも直ぐに実行できる一般的なものですが、このハビットリバーサル(HRTハビットリバーサルトレーニング)がCBITの中核となります。

ハビットリバーサル、Habbit reversal (習慣逆転法)とは?

チックの動作と競合する同時にできない動作(拮抗反応)を行いチックを制御(ブロック)し、その衝動をしずめるというものです。

簡単な例を上げると、瞬きチックをHRTで対処するならば、瞬きと競合する動き、つまり「目を見開く」という動作を意識的に行うのです、この「目を見開く」動作の事をHRTでは「拮抗反応」と言います。

HRTでは、瞬きをしたくなる衝動を感じる度、この拮抗反応を衝動がなくなるまで継続します、日々この様なトレーニングを続ける事によって「瞬きチックの習慣」を無くすことができ、チックが徐々に軽減していくというのがHRTの考えです。

私がHRTを行い感じたイメージでお話すると

とあるチックを出せという司令が脳に表れ、その後体に違和感が出現する、この違和感を「前駆衝動」または「チックシグナル」といいます

※小さなお子様の場合、前駆衝動を感じずに無意識でチックを出している場合もあります、その際はAwareness training(気づきの練習)を行います。

前駆衝動を感じたらチックと競合する「拮抗反応」を行い前駆衝動をブロックする、簡単に言うと我慢です、我慢というと「いつも行っているよ」と思う当事者の方も多いと思いますが、拮抗反応とは単に我慢するだけではなく、チックを制御しやすくするより良い動作とお考え下さい。

拮抗反応を続けているうちに前駆衝動が消失または軽減します、これを常に繰り返す事により、今までの習慣(前駆衝動を感じたらチックを出すという脳の習慣)を再構築するのがHRT(ハビットリバーサルトレーニング)、チックを出さなくとも前駆衝動に対処する事が出来るのだと新たに脳に学習させるのです。

※チック症状への認知行動療法(ハビットリバーサル・呼吸法/CBIT/ERP)については、今後特設ページを設けチックの自己対処法のやり方を詳細に記載する予定です。それまでの間は東大病院でご指導いただいた内容を基にオンラインセッションを行っております。

つまり、ハビットリバーサルとは

チックの前駆衝動をブロックし、前駆衝動が再発しにくい動作を身につけ、それらを脳に学習させ体に記憶させる事で、習慣化しているチック症状を軽減、改善させるトレーニング、行動療法でもあるのです。

しかしながら重症に値する私は、かなりのトレーニングを行い、チックを軽減させたものの、少なからずまだあります。

YGTSSで言えば38→29に改善(ハビットリバーサルとERPにより)、ERPとは、暴露反応妨害法というOCD(強迫性障害)に対処する認知行動療法です。

CBITには少し前の物ですが、アメリカでのエビデンスがあります、それを踏まえ個人的見解を述べさせていただくと、YGTSS25点位、つまり中等症くらいの方に最も効果がでやすく、重症者には効果が出にくい印象があります

また、CBITを行うことにより前駆衝動を完全に無くすことはできないという権威のある所からの論文が数年前に発表されています、つまり完治を目的とした治療法ではないという事、マニュアルにも治癒を目的とした療法ではなく、チックをよりよく対処するためのスキルだと記載されています。

エビデンスにも記載されていますが、アメリカで行われたCBITの研究で改善されたYGTSSの平均スコアは約7点、中等症の方が軽症に改善する様なイメージです。

私が受けた感想としても限りなくゼロに近い前駆衝動になったチックもあれば、そうでないチックもあります。

私はこの残った前駆衝動がトゥレット症の本体、つまり認知行動療法で軽減できた前駆衝動は、強迫や不安障害など様々な精神的要因や誤った習慣などにより、自らが増悪させてしまったチックではないのかと考えています。

冒頭にも説明した通り、このトゥレット症の本体、このベースが強ければ難治性トゥレット症になりやすく、またそのベースが子供の頃に改善されると自然にチックも消滅、完治するのではないかと感じています。

※ここまでYGTSSのスコアを参考にしてきましたが、もしかしたらこのトゥレット症のベース自体はYGTSSでも反映できていないのではと感じています、強迫や不安障害などでチックが増悪していれば、トゥレット症のベースに関係なくYGTSSのスコアも高くなるはずです。つまりスコアが高いから難治性トゥレット症と判断するのではなく、改善される余地は十分にあり、重要視するべきは精神的要因や習慣を除いたトゥレット症の本体、ベースであり、YGTSSは参考の一つとして捉えるべきかも知れません。

私のYGTSSスコアは38/50、これは一般的な考えからするとハビットリバーサルを行うには少し高すぎたかもしれません、その為ERPの考えも併用し複合的に対処しました。

そもそも一定の年齢以上の当事者は、既にハビットリバーサルのような事を自ら編み出し行っています、その上でのYGTSSという事も考慮しなければなりません。

少し長くなりましたが、私自身の経験からも、チック症状への認知行動療法(CBIT/ハビットリバーサル&ERP)は、チック症トゥレット症に有効な対症療法の1つであると考えます。

重症者でも努力次第では改善出来る可能性も、そしてハビットリバーサルは、トレーニング的な要素が強い為、全ての方に同様の効果が発揮される訳ではありませんが、当事者が治療に前向きな姿勢をお持ちでしたら、試してみる価値のある治療法だと私は思います。

【追記 2021/4】

トゥレット当事者会では東大病院よりご指導頂いた内容や、国内外の様々な文献を基に、チック症状への認知行動療法(CBIT/ハビットリバーサル・呼吸法・ERP)の無料オンラインセッションを行っております。セッションをご希望の方は、先ずはこちらをご確認の上お申し込みください。

様々なチック症状をCBIT(チックの為の包括的行動的介入)を軸に拮抗反応や呼吸法などを駆使し、当事者自らがチックを管理・コントロールし、症状の悪化を防ぎ、チックを改善出来るようになる自己対処法を指導いたします。

これまで多くの方のチック症状を改善することが出来ております。もしセッションにご興味のある方がいらっしゃいましたら、下記リンクの最下部をご覧下さい。申込方法や、当会の認知行動療法のセッションをお受けになられた方のご感想や改善事例の一部を掲載いたしております。↓↓↓

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